第17番 曼殊院 門跡
ご朱印

法のため 我がたつそまぎ ひくからに 月もくもらぬ 世を祈るかな
家田荘子コラム 十七番 曼殊院門跡
曼殊院の勅使門を左に行くと、北通用門があります。ここに拝観受付や納経所があります。 そこをすぎて、庫裡(くり)へ。靴を脱いで上がります。まずは大黒天様にご挨拶。大きな大きな由緒あるお屋敷といった雰囲気で、ちょっと遠慮しながら赤絨毯の上を歩いて行きます。 中国賢者の屏風をすぎて、こじんまりと整えられた美しい中庭を眺めながら、右の売店にも心を動かしつつも、竹の間、虎の間、孔雀の間……と歩いて行くと、目の前に梅林が広がります。さらに歩いて、大(おお)書院へ行きます。 大書院は、南は「滝の間、十雪の間」、北は「滝の間」の奥に「控の間」。「十雪の間」の奥に「仏間」。西には細長い「鞜の間」があります。また「滝の間」と「十雪の間」には、貼付壁があり、狩野探幽の絵が描かれています。欄間の卍くずしや、長押(なげし)の飾金具、杉戸の引手金具など、見るものすべて大変古いのに、自分の目には新しく、感激と驚きの連続です。名前のついている有名な部屋だけで15部屋。それぞれとても見どころがあります。 大書院の重要文化財指定名称は「曼殊院本堂」となっています。本尊・阿弥陀如来様がいらっしゃるからです。寄棟造、?(こけら)葺きの建物ですが、ただの建物ではありません。杉戸の引手金具に瓢箪(ひょうたん)や扇子の形が使われ、桂離宮の御殿と共通した高尚なデザインが見られ、「小さな桂離宮」ともいわれています。 (広いなぁ、広いなぁ……)と、ため息をつきつつ、夏は(ああ、涼しい……)、冬は(なんて寒い)などとつぶやきながら、控えの間、滝の間、龍の間を経て、ようやく十雪の間に辿りついた途端、(あっ……!)足が止まっていました。 左の仏間をふり返ると、阿弥陀如来様の左に十一面観世音菩薩様、右には薬師如来様が、凄いパワーを秘めていながらも、それを悟られることなく静かにそこにいらっしゃるのです。庭園に気を取られ通過してしまう人も多くいますが、もったいない……。 数寄屋造で?(こけら)葺きの小書院は「黄昏の間」が最高の部屋とされています。富士の間との間仕切りの上は、格子に菊の花を散らした欄干があり、浮き彫りと透かし彫りで漆の紅白配合がとても美しく、なんておしゃれでしょう。襖絵は狩野探幽。なんとも豪華で高貴なお部屋です。 小書院の南縁には「梟(ふくろう)の手水(ちょうず)鉢(ばち)」が置かれています。蹲(つくばい)のように石が組まれた丸型の手水鉢の四方に梟に似た鳥の彫刻が置かれているのです。 突き当りの富士の間には、狩野探幽(かのうたんゆう)の襖絵があります。江戸初期、障壁画で飾られたそうです。 ところで黄不動様は……? と、待ちきれないのですが、お不動様はその先の宿直(とのい)の間にいらっしゃいます。 良尚法親王御筆の隷書、竹筆や国宝藤原行成筆の本古今和歌集などが展示されている丸炉の間、そして続きの御寝の間の奥が、宿直(とのい)の間です。 院内には、重要文化財の茶室が2室あり、「無窓の席」と「八窓軒」の2室とも小書院に付属しています。八つの窓は、釈尊の生涯を八つに分けて表現しているそうです。 曼殊院は、文学の寺、黄不動の寺、名勝庭園の寺として有名で、平成24年12月3日には天皇陛下がご参詣されました。その名勝庭園ですが、すばらしいの一言に尽きます。庭園を目の前にし、時間が止まったような自分だけの空間を切り取ることができます。庭の中に鶴島と亀島があります。 右手、西の方には、鶴が羽を広げたように見える鶴島。そこには台風で枝が折れたものの樹齢400年の五葉松が根を張っています。その東に亀島と、築山・蓬莱山(ほうらいさん)があります。 また、庭園には「五基八燈の灯籠」と呼ばれる灯篭が5基あり、鶴の根元には、南灯篭、切支丹(きりしたん)灯篭もあります。「五基八燈」というのは、天台宗の教義である釈尊の説法を五つの時、八つの教えに分けて説いた(五時八教)から名づけられたそうです。 蓬莱山は、悟りを開いた人が住む処とされています。自分が立っている建物自体が尾形船にたとえられ、煩悩により苦しみ満ちたこの世界から蓬莱山へと向かうという想定で庭が作られているのです。これは良尚法親王の意向が反映されているそうです。庭を眺めて歩きながら、建物の方に目をふとやると、釘隠しが見つかり、何か得をしちゃったような小さな感動を覚えます。富士山の型の七宝製釘隠し……なんて細やかで粋でしょう。 こういう小さな所にも、昔の人々は、楽しみを込めて下さるのですね。 名勝庭園は、水のない所に石を配り置いて山水を表現する枯れ山水(さんすい)です。 GWには、霧島ツツジで赤くなり、秋は紅葉で赤くなる名勝庭園は、毎年11月1日~30日ライトアップで夜8時まで参拝できます。春は桜、ソメイヨシノ、サツキ、ツツジ。夏は新緑、秋は紅葉、りんどう、冬は雪景色や梅、椿、サルスベリやサザンカなど、この庭は年中、訪れる人の目と心を愉しませてくれます。 黄不動の本物の方は、現在、京都国立博物館にいらして秘仏です。私たちが曼殊院で拝見できるのは、いわゆる複製です。でも、ただの複製でなく、とても迫力があり、パワフルです。心からお参りをしますと、こちらの黄不動様を通じて、国宝の黄不動様に思いをお伝えいただけるのです。 承和5年(838年)、弘法大師空海上人の甥っ子である智証大師円珍(天台宗五世座主)が、25歳の時、座禅をしていた際に「汝、わが像を図し、法器を愛し、敬うならば、汝を擁護せん」とお告げがあり、図師に謹書せしめたのが黄不動尊だったそうです。 青蓮院門跡の青不動、高野山の赤不動と並んで曼殊院の黄不動が大変有名です。黄不動は、縦168.2センチ、横80.3センチの国宝で、両目をカッと開き、正面を見据え、拳を握りしめている黄不動は、筋骨逞しく、とてもかっこよく、一心に祈れば、お力を貸していただけそうな頼もしさを感じます。でも、心に迷いがある時など、黄不動様の目に、すべて見透かされているようで、まっすぐに見つめられなくなってしまうのです。 最後に訪れるのが、上之台所という高貴なお客や高僧のための厨房で、白い台におくどさん(釜)が並んでいます。とてもきれいなキッチンですが、天上がもの凄く高く、(冬は寒そう……)と、私が真夏に訪れた時さえ、そう感じました。
近畿三十六不動尊霊場会先達・作家 家田荘子寺院紹介
- 名称
- 曼殊院門跡(まんしゅいんもんぜき)公式サイト
- 通称
- 曼殊院
- 不動尊について
- 国宝。黄不動明王像(俗に黄不動と言う)。常時公開。復刻黄不動明王像
- 縁起
- 延暦年間(728~806)伝教大師最澄が、比叡山に道場を創建されたのが、そもそもの始まりである。 天暦年間(947~957)是算国師の時、北野天満宮が造営され、明治維新まで900年間、曼殊院は、北野別当職を歴任する。 村上天皇の御代(946~967)、京の町が大火に遭い、病気も流行って、不動明王様をご本尊とする「安鎮家(あんちか)国法(こくほう)」という祈願がされる。 この祈願は、応仁年間(961)10月24日、喜慶天台座主が奉修されたのが最初で、曼殊院にも伝承されている。 天仁年間(1108~1110)八代忠尋大僧正が寺号を曼殊院と改め、北山に別院を建てる。後に曼殊院は、この別院に移る。 明応4年(1495)伏見貞常新王の息子である26代滋運大僧正が入室され、それ以降、門跡となる。 明暦2年(1656)、後水尾天皇の猶子、29代良尚法親王が入寺し、現地に堂宇を造営したのが曼殊院の始まりとなる。 父親である智仁新王は文学者だった。細川幽斎から古今伝授を受けた後、後水尾天皇に伝える。この文学精神を庭園や建築に取り入れたのが桂離宮。その流れを継いだのが曼殊院である。
- 所在地
- 京都市左京区一乗寺竹ノ内町42
- 郵便番号
- 606-8134
- 電話番号
- 075-781-5010
- 宗派
- 天台宗
- 開山
- 良尚法親王(中興)
- 創建
- 延暦年間(782~806)、明暦2年(1656)現在地に移転
- 詠歌
- 法(のり)のため 我がたつ杣木(そまぎ) ひくからに 月もくもらぬ 世を祈るかな(良恕親王)
- 行事
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- 毎月28日
- 不動尊命日(護摩供養)
- 1、4,9月初巳の日
- 弁財天法要
- 7月5日
- 良尚法親王忌。
- 特色
- 名勝庭園の寺、文学の寺、黄不動の寺として有名。曼殊院本古今和歌集等国宝を初め、建造物、襖、仏像、絵画、立花図等重要文化財多数所蔵。
- 交通(地図はこちらをクリック)
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- 徒歩
- 京都駅から5系統、A-1「岩倉行」市バスに乗って、約1時間。白川通りの「一乗下り松」バス停から約1キロ、ゆるやかな坂を上がって行く。または「清水町」のバス停で下りて信号を渡る。表示に従って突き当りを左(道標あり)、ずっとゆるやかな坂を登って行く。突き当りが西圓寺で、さらに坂を登る。石材店の観音様を左、雑草が生え放題の家の多い小さな道を行く。よく見えない表示に従って左へ行く。右へ行くと墓地へ行ってしまうので、表示を読み間違えないように……。バス停は、清水町の方が近いけれども、「一乗寺下り松」の方で下りた方が判りやすい。 武田薬品工業株式会社の京都薬用植物園を左に。突き当りが高い石段の上にあるのが勅使門で、曼殊院の正門。左へ行くと拝観者入口の北通用門がある。参道の西に弁天池がある。弁天島は、紅葉が美しく、天満宮、弁天堂が並んでいる。天満宮は、現存する曼殊院最古の建物で、室町時代末期に建立された。 叡(えい)山電車で行く場合、「一乗寺」または「修学院」下車。山の手に向かう一本道(曼殊院道)を20分ほど行く。地下鉄北大路線からは、バス「北8系統」、地下鉄国際会館駅からは、5、31、65系統に乗る。
- 車
- 白川通りから曼殊院への道標により、寺へ。拝観通用門直前の専用駐車場に駐車のこと。
- 団体バス
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- 大型バスは白川通り近くの八大神社参道駐車場(075-781-9076)又は明星バス(075-721-2011)にあらかじめお問い合わせ下さい。
- マイクロバス(25人乗)は、車の場合と同じ。
- 休憩宿泊等
- 当山境内の弁天茶屋にて、休憩、食事等可。50名位。晴天の場合は、屋外休憩可能。
- 拝観
- 院内の建造物、庭園等拝観、大人500円、小・中300円、高校生400円(団体割引あり、30名以上450円)。
- 附近の名所旧跡
- 修学院離宮、詩仙堂、狸谷不動尊、宮本武蔵決闘の下り松。
- 特産
- 弁天茶屋の門跡そば。
- その他
- 春の桜から、サツキ、ツツジ、新緑、もみじ、りんどう、雪景色、かなめ、梅等と年中かわった趣がある。5月はじめの霧島ツツジは特に有名である。